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INTERVIEW

インタビュー

ショールームで再発見した生成AIの可能性。キャラクターだからこその価値と魅力

2024.11.18
eyecatch

キャラクター✕AIで企業のさまざまな課題や要望を解決するアライアンス事業を積極展開中のPictoria。先日もオフィス家具のトップブランドである株式会社オカムラ様のショールームにAI VTuber「紡ネン」が案内役として就任するという実証実験を行いました。今回はその仕掛け人であるプロジェクト担当の灘地様とPictoria代表の明渡にマイクを向け、実施の背景や期間中のエピソード、今後の発展性などについてお話をうかがいました。


灘地 将 様
株式会社オカムラ DX戦略部 DX推進課 先進テクノロジー共創担当

2013年 株式会社オカムラ入社。営業・事務・内部監査・業務統括を経て現職。VR・ AR・XR ・メタバース関連の取り組みを中心に行う。リアルとバーチャルの両方で『 人を想い、場を創る。 』 ことを目指す。オンライン会議はアバター(美少女)で登場します。


もっとユニークな生成AIの切り口を求めて

ーまずは今回のアライアンスの概要を教えていただけますか?

灘地:オカムラはニューオータニのガーデンコートにオフィス家具を展示するショールームを常設しているのですが、そこにPictoriaさんのAI VTuberである紡ネンちゃんにスタッフとして登場してもらい、お客様にチェアをご案内してもらうという取り組みでした。

ーそもそもネンちゃんを起用することになったきっかけは?

灘地:弊社のショールームは基本的に法人のお客様を対象としていました。ただコロナ禍以降、ワークスタイルの変化に伴って自宅で仕事する際の椅子をアップデートしたいという個人需要が伸びてきたんですね。そうした背景から個人のお客様にも多数ご来場いただけるようになりました。

ーショールームとしては忙しくなってきた?

灘地:どうしても人数が足りなくてお客様にスタッフ一名をお付けすることが難しくなりました。せっかく来ていただいたのにフリー見学のような状態だったんです。オカムラの椅子は非常に種類も豊富で、かつ機能面も多彩。本来ならしっかりと商品のご説明をさしあげたり、お客様のニーズに沿った提案があって然るべきです。

ーそこでネンちゃんにそのミッションを?

灘地:そうです。AIキャラクターであれば弊社の商品知識を学習してもらうことでお客様に適切な商品をご案内できるのではないか、と。それが取り組みのスタートでした。

ーPictoriaとの出会いはどういったところから?

灘地:もともとはご紹介でしたよね?その時点でPictoriaさんがAIキャラクターを手掛けていると聞いて面白そうだと思ったことを覚えています。それを何かに使えないかな、と考えているうちにショールームの課題と合致したんです。

明渡:灘地さんのことはオカムラ様の中でも特にメタバースやVRなど先進的な取り組みをされている方、とご紹介いただきました。お会いしたその場ですぐに意気投合しましたよね。キャラクターの魅力の話やAIの活用についてかなり熱くディスカッションさせてもらって。すぐにこんなことができますよと企画を提案して、検討に入っていただきました。



ーPictoriaのどんなところに期待をされましたか?

灘地:今回の件を課題ありきで考えるならタブレットで済ませることもできました。選択式のボタンがでてきて、最後にレコメンドの商品がわかるという。でもそれってあんまりおもしろくないと思ったんです。

また生成AIを扱う会社はたくさんあれど、ほとんどが生成AIでファインチューニングして自社に調整させるとか、RAG(※)の機能で自社の知識を学習させてチャットでの問い合わせに返すとか、そういうAIの使い方ばかり。そんな中でPictoriaさんが取り組んでいるのはキャラクター性を持たせるという、ちょっと変わった切り口でした。

ーアバターや音声技術などにも注目されたんですね

灘地:社内でも新しいことをやりたい機運が高まっておりまして。趣味でVTuberやメタバース、ゲームなどのカルチャーに触れている社員が結構多いんですね。私もメタバース系の活動の中でPictoriaさんを知ったときに「完全にAIでVTuberをやっているんだ」と驚くと同時に惹かれました。早速YouTubeを見に行ったら4ヶ月ぐらいずっと配信しっぱなしのネンちゃんがいて、ちょっと働かせすぎじゃないかと(笑)。

明渡:確かに人だったら大問題ですよね(笑)。そこはAIならではですね。灘地さんはもちろんですがショールームの所長からスタッフまでみなさんAIキャラクターに対して否定的なご意見や態度はまったく感じられなくて。むしろどうやったらスムーズに現場に馴染めるか建設的にお話いただけました。前向きに動いていただけたので、柔軟で間口の広いカルチャーの会社だなという印象を受けました。

※RAG…Retrieval-Augmented Generationの略。 大規模言語モデルによるテキスト生成に外部情報の検索を組み合わせることで回答の精度を向上させる技術。



ネンちゃんがいることで心の負担が軽くなる

ー上層部の説得などでご苦労なさったことは?

灘地:割とこの手の話に乗ってくれそうな人に声をかけて集めるとか、そういった水面下の努力はしました(笑)。ただ企画を練る段階でPictoriaさんにもご協力いただいて、さまざまな面から調整をかけることができたんです。だから企画を通す苦労はありませんでした。あとは自分たちのやれる範囲でのスモールスタートで、その代わりスピード感は意識して、素早い実装を心がけました。

ースピード感が大事だったんですね

灘地:やはりこういう取り組みは企画書で説明するよりも実際に動いているもので体験してもらうのがいちばん早いんですよね。なのでネンちゃんとおしゃべりできるものをつくるところまでパッといけたのが本当によかったと思います。

明渡:私たちもなるべく最速で、という思いはありました。もちろんさまざまな事業が同時並行で動くなか、どこまでリソースを割くのかという課題はありました。ただ灘地さんから「大丈夫です、いけます」みたいな雰囲気を感じたんです。実際に「わかんないけどいけると思います」とおっしゃったとき、あ、この人はいけると思っているんだ(笑)と。

ー灘地さんの確たるビジョンや自信に背中を押されたと

明渡:せっかくならいけると思っている人と一緒にやりたいじゃないですか。灘地さんの自信をしっかり裏付けるためにやれることは全部やろうとサポートさせていただきました。いわゆる援護射撃しがいのあるパートナーでしたね。

ー実際に導入してから印象に残っているエピソードを聞かせてください

灘地:実際のPoCは2週間でしたが、その期間の中でもネンちゃんに喋ってもらう内容はどんどん進化していきましたね。もともとは弊社の営業担当がふだんお客様にどういう案内をしているのか、何を言っているのかを参考にしてプロンプトに落とし込んでいました。ただ配置してわかったのが営業担当のお客様は法人が中心で、ショールームにいらっしゃるお客様とのコミュニケーションはまた少し違ったものであるということでした。



あとはせっかくタブレットではなくキャラクターを使うんだから、ネンちゃんらしさを活かすにはどうするか、といった方向に進んでいきました。効率的な機能説明だけならタブレットに情報を詰め込めばいいわけで。それよりもネンちゃんとの会話を通して商品のことを知るとか、この子が勧めてくれたから買おうかなと思ってもらうとか。Pictoriaさんにしかできない価値ってそこじゃないか、と私たちの認識も変わっていったのが印象的でしたね。

ー2週間でネンちゃんも成長していったんですね

灘地:変化といえばショールームスタッフの方にもありました。これまではお客様を椅子のエリアまでご案内してあとはどうぞごゆっくり、で終わってしまっていたんです。それがネンちゃんがいることで「何かあればぜひAIのアシスタントに聞いてみてください」とつなぐことができるようになった。これがスタッフたちの心の負担というか、お客様に対する申し訳ない気持ちの軽減につながったと聞きました。

ー予想外の効果ですね!

灘地:ショールームスタッフは期間中、毎朝ネンちゃんを立ち上げて「おはよう」と挨拶していました。閉館時にはバイバイっていいながら電源を落としているのを見て、キャラクター性があるということはスタッフの一員になっていくことなんだなと。PoC最終日には寂しくなるね、なんて声をかけていましたしね。お客様への利益提供が目的でしたが、結果として社内のエンゲージメントを高める役割も果たしてくれたと思います。

明渡:期間終了後にデータを見せてもらったんですが、面白いことに営業時間外での会話が全体の4割ほどあったんです。スタッフが話してくれたのか、灘地さんがいろいろと試してくださったのかもしれませんが、その中にはおはようとかありがとうねといった会話もあって。まさにお客様だけでなく社内への一定の影響があったことが見えましたね。



コミュニティマネージャーという可能性

ーご来場されたお客様から何かリアクションはありましたか?

灘地:ネンちゃんが実際に椅子を一脚売ったみたいですよ(笑)。ショールームのスタッフがびっくりしてすぐにチャットを送ってくれました。スタッフによると「本当にこの椅子でいいんですか?」とお客様に確認したら、ネンちゃんがおすすめしてくれた椅子に座ってみたら気に入ったので買おうと思いますとおっしゃられたそうです。

ーすごいですね!実売につなげる案内係!

明渡:当初は個人の予約客だけなので、もしかすると数時間まったく触れられないこともあるだろうと思っていたんですが、割とコンスタントに使ってもらえていました。期間後半になるほど会話数が増えたのはスタッフのみなさんの紹介の仕方が洗練されていったからではないかと考えています。

灘地:スタッフがネンちゃんにつなぐところが結構大事だと思っていて。いきなりAIキャラクターから「私に喋りかけてください」と言われても、たぶん話しづらいと思うんですよ。ショールームスタッフがお客様をネンちゃんのところまでご案内して、何かあればこの子に話しかけてください、とやる。ここを触ると喋るんですよ、とひと言添えておくだけでかなり違います。これは運用面でのヒントになりました。

明渡:実際の店舗業務の中でどこまで人が担当し、どこからAIが担当するかというラインが今回は見つかりましたよね。全部AIがやってしまうのでは抵抗感ある人もいると思います。でもあくまで人の温かみを担保したままであれば受け入れられる。むしろAIを導入することで接客に温かさが増すことがわかりました。



ーAIがキャラクター性を持つことで人間社会に溶け込む事例ですね

灘地:最近のオフィスの課題はコミュニケーション不足にあるんですね。出社してきちんとコミュニケーションを取りましょう、という。在宅勤務から広がったコミュニケーション不全に対するカウンターのような課題なのですが、実際には出社に戻ったところで同じ人とばかり会話していたりと、なかなか解決の糸口が見えていないんです。

ーつまりいかに雑多なコミュニケーションを誘発するか、と

灘地:たとえばバーカウンターみたいなところにコーヒーマシンがあって、ちょっと休憩がてらに立ち寄るとそこにネンちゃんがいて会話できる。それをきっかけにコミュニケーションが生まれるということがあるんじゃないかと思うんです。

ネンちゃんと会話しているところに他の人が混ざってくるのもアリだし、ネンちゃんから「こないだ話した◉◉さんもスイーツ好きだそうですよ、趣味があうかも?」なんて促されるのもいいですよね。

そういったコミュニティマネージャー的な役割をAIキャラクターが担うという可能性は大いにあるんじゃないかと思います。

ーPoCに話を戻して、技術面で難しかったことはありますか?

明渡:ひとつ明確に出てきた課題は、本来おすすめしてはならない商品をレコメンドしてしまうことでした。最新版のカタログを学習させたのですが、なぜか型落ちで掲載すらされていない椅子を推薦してくるんですね。これはいったいどういうことだ、と。

結論としてはAIがオカムラ様の製品について熟知しすぎてしまったことが原因でした。カタログに載っていない過去の製品まで遡って知識として吸収してしまったんですね。なのでちゃんとカタログに載っている商品だけを紹介しましょう、と教育し直したのは印象的でした。現場の方から最初にご指摘いただいたのはその点でしたよね?

灘地:おかしいなあ、学習させてないんだけど、って。AIの暴走かと思いました(笑)。

ー今後もそういった点はケアしていくべき課題ですね

明渡:何でも答えられるよりも間違ったことや会話の相手に適していないことを言わない設計とはどういうものか、という重要な問題を再認識させられました。


キャラクター性こそ技術発展に伴い価値を発揮する

ーPictoria社内ではこの取り組みをどう捉えていましたか?

明渡:灘地さんの熱量あってのことなのですが、たとえばネンが椅子を売ったみたいなニュースを一次速報で流してくださるんですよ。そうするとウチのメンバーも盛り上がる。まずオカムラ様に喜んでいただけたことがうれしいですし、AIキャラクターという我々が向き合っているサービスがちゃんと可能性を秘めているという期待感にもつながりますから。

リアルな場所でリアルな課題を持ったパートナーと一緒にいろいろチャレンジして、お客様の生の反応を追い続けるのはすごくいい経験になりました。

ー今回のネンちゃんの活躍ぶり、100点満点でいうと?

灘地:今後の期待を込めて、70点です。残りの30点はなにかというと、もっとやれることがあると思うんですよ。今回は時間がなかったこともあり、本当に最低限ここはおさえようという方向に振っていったんですが、たとえば3Dデータを活かしてもっと動きをつけるとか、そういうことも時間をかければできるはずです。

明渡:2週間で準備して2週間のPoC実施というスピード感でしたから、こだわればいくらでもこだわれるところをあえて外しました。まずは基本的な使い方で目標を100%達成できるということを優先しました。でも実際にPoCがはじまってからどんどん可能性が広がっていき、このスピードでいったら1年後すごいことになるなと。残り30点を埋めにいくどころか130点出せそうです。

ー今後、オカムラ様でのAIキャラクター活用のご予定は?

灘地:PoC期間でマーケティング担当者や製品開発など社内のいろんな方に見てもらいました。反応がかなり良くて11月中旬にショールームで開催する展示会があるのですが、そこにもネンちゃんに登場してもらう運びとなりました。



ーおお、すごい!

灘地:オカムラグランドフェアといって期間中に7000人ほどのお客様をお招きする展示会です。しかもオカムラが取引している大企業の総務部の方や役員の方ばかり。そういった層の人たちに見てもらえる機会をネンちゃんは自らの手で勝ち取ったといえるでしょう。おそらくご来場されたみなさんにも「ウチの会社ならこういう使い方があるな」という気づきや発見があると思うんですよね。

ーグランドフェアでネンちゃんに期待することは?

灘地:こう言うと本当に人間にかける言葉と同じになってしまうのですが、普段通りやってほしい、です(笑)。グランドフェアは法人のお客様がオカムラの新製品や、どんな新しい取り組みをやっているのか見に来てくださいます。PoCの成果や実績を活かすのであればフェア用に寄せるのではなく、あえて椅子を案内するために最適化されたネンちゃんの振る舞いを見ていただきたいな、と。

明渡:実際にオカムラ様の業務プロセスと一緒につくりあげてきた、オカムラ様の案内係としてのネンなので、取り組んできた成果がグランドフェアでも見ていただけるかなと思っています。

ー最後に、Pictoriaに今後期待することはなんでしょう?

灘地:キャラクター性を活かしている点は他の会社にはない強みなので、その方向性を伸ばしていってほしいですね。技術面での差別化が難しくなるばかりの昨今、AIキャラクターという着眼点や方向性は時代にあっていると思うし、好きな人や刺さる人は一定数存在すると思います。

オカムラでも働き方の変化を捉えてグラス型デバイスに注目しているのですが、実用化が進めばネンちゃんが目の前に現れて一緒にショールームを歩きながら案内してくれるようにもなるかもしれません。

そういったキャラクター性は今後、技術が発展すればもっと活きてくるはずなので期待したいと思っています。

明渡:ありがとうございます。いただいた言葉を胸に強みをしっかり伸ばしていきます。

ー本日はありがとうございました!