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INTERVIEW

インタビュー

【ボードインタビュー】人生に、“推しがいる”という豊かさを。レガシーなエンタメ業界にAIで風穴を開けるイノベーター

2024.08.28
eyecatch

無限の可能性を秘めた生成AI。いまさまざまな分野でどう活用するか、という議論や実践が盛んに行われているが、株式会社Pictoriaでは明確にエンタメ領域にスコープを絞り込んでいる。その理由はいったいどこにあるのか。明渡代表にマイクを向けてみた。

コンテンツには人生を動かす力がある

ーまずは明渡さんのエンタメ原体験を聞かせてください

きっかけは中学生でノベルゲームにハマったことですね。ノベルゲームとは文章を読みながらコマンドを選択することで個別の物語が進んでいくタイプのゲーム。女の子がたくさん出てくるのでギャルゲーという呼び方のほうが市民権を得たジャンルです。

これが当時の地元の中学生の間で広まり、すごい世界だということで僕ものめり込んでいったわけです。

ーそれまではサブカル的な趣味はなかった?

地元が和歌山市内なのですが、いかんせん娯楽に乏しい街でして…それこそ年に一度の花火大会が小学生時代の唯一の楽しみという世界。また親も教育熱心で、漫画なども自由に読める環境ではありませんでした。ただ、たまにゲームは買ってくれましたね。それと自分用のPCが家にあった。

ーPCのノベルゲームが現在につながる原点だと

そうですね。ノベルゲームは僕より10歳ぐらい上の世代からはじまって、2000年代に最高潮を迎えたカルチャーでした。いまやすっかり下火になってしまいましたけどね。衰退とともにノベルゲームの文化圏からラノベやアニメ、さらにはソシャゲといった分野にたくさんの才能が流出していきました。

ー当時ノベルゲームのどこにハマったんですか?

ひとつは体験時間の長さにあります。クリアするのに30時間から50時間、長いものだと100時間かかるのもありました。それだけ、その世界にどっぷり浸かることになるわけです。



もうひとつは自分でゲーム攻略のペースをつくれる点です。本を読むのと同じですから前の章に戻ったり、なんども同じシーンを繰り返すこともできます。物語の速度を自分でコントロールできるので、より没入感を味わえるんです。

またコマンドによって結末が変わるので、一度クリアしたあと別のルートを試すのはもはや鉄板で(笑)。なるほどこういうエンドもあったのか、と模索するのが大好きでしたね。

ー現在の仕事にも通じる片鱗が早くも…

13歳から15歳の頃に体験したコンテンツで人間の感性は形成されると思っています。僕もたまに昔のゲームをやったりするんですが、ふだん社員や社外に向けて話している言葉がそのまま登場人物のセリフだなんてことも。いま、この歳になって僕が考えていることや世界観のベースは既に中学生時代に形づくられていたんだな、と感じています。

ー人の興味関心は13歳から15歳で決まると

コンテンツには確実にそういう力があると思いますね。人生を左右することにもつながる。それほどの影響力があります。実際に文系の僕がいまAIを手掛けていることも、あるいは高校で物理を選択したのも、ノベルゲームのテーマや世界観、SFの要素から興味関心が広がっていった結果ですからね。

だからこそ自分もコンテンツの受け手を新しい世界に誘ったり、知らなかったけどこういうところもいいなと思ってもらえるものを作っていきたい。常にそう思っています。




AITuberを一大産業へと育てあげる

ー生成AI×エンタメを事業の軸に据えたのはもはや必然のようですね

当社の創業は2017年ですが、当初からずっとエンタメ一筋でしたからね。そもそもコアな強みがそこにあるわけです。もちろん生成AIが出てきて、特にChatGPTの登場以降にビジネスの幅が広がるんじゃないかと模索はしましたが。

ーPictoriaにとってもエンタメがアセットだったと

会社が持っているアセットやノウハウを活かせて、かつユーザーのインサイトもわかっている領域に軸足を置くほうが自然だろうという意思決定です。所属しているメンバーもエンタメ好きが多いので、そこはぶらさないほうがいいという思いもありました。

ー投資家の方々からのご理解や評価はどのようなものでしょうか?

さすがに投資家のみなさん全員がエンタメ好きというわけではありませんが(笑)ずば抜けて情報処理能力が高い方ばかりなので、極めてロジカルに事業の可能性や将来性を見込んでくださるケースが多いと感じています。ただ、ここ半年ぐらいは当社以外にプレイヤーが出てきていなくて。いい意味でも悪い意味でも孤高の存在になっているんですよね。

ー悪い意味とは?

やはり競合が出てきて、健全な競争があってこそマーケットは盛り上がるわけで。そういう点で僕らは競合の登場を待ち望んでいるんですよ。活況になればなるほど投資家さんたちのアテンションを集めることにもなりますし。



ー独走態勢で安泰、というわけではないんですね

なにより僕の中にAITuberを一大産業にしたい、という想いがあるんですよね。なのに当社しか企画やプロデュースをやっていないのではとても産業とはいえない。ゆくゆくはアニメぐらいの市場規模になってほしいのですが、それはウチだけではできないだろうと。群雄割拠の中でどのポジションを取りに行くべきか、ということを今から考えています。

ーアニメ市場のレベルに到達させるための課題はなんですか?

課題は一瞬で理解しにくいところにあると思っています。たとえばVTuberを知っている人がAITuberの配信を見れば「これ中身がAIなのか?どうやって使うんだろう」と考えるでしょう。しかしそもそもVTuberを知らない人からするとAIでやることの意味自体がわからない可能性もあります。ビジュアルや遊び方含めてマニアックな面もありますから。

このあたりの壁がなくならないといけないと感じています。誰が見ても一発で面白さや存在価値がわかるところまでたどり着かないことにはアニメ市場レベルの普及は難しいのではないでしょうか。

ーその課題を解消するには?

いろいろなアウトプットを試すことに取り組んでいます。現時点では『紡ネン』を今後大きく育てていく方針ではありますが、同時に誰にもリーチできるメジャーなものにするためにはいろんなキャラクターを増やしていく必要があると感じています。

もちろんAIエンタメを普及するために『紡ネン』が果たせる役割もありますが、とはいえひとつのIP、ひとつのキャラクターですから。大和証券さんとの取り組みのようにビジュアル以外を担当する、などメジャーに向けてやれる方法論には全てトライしていきます。



グローバル展開における相性の良さ

ーAITuberのグローバル展開についても聞かせてください

まず前提として現時点で既にアニメ市場自体、海外の売上のほうが高いんですよね。それはVTuberの領域でも追随していて、上場している2社ではグローバルが売上の3割を占めているほど。さらに海外事務所の買収戦略といったトピックも聞こえてきます。言うまでもなくグローバルにおける日本発のアニメ文化やVTuberの土壌は広がりつつあるんですね。

ー内閣が推進するクールジャパン戦略のひとつでもありますしね

アニメルックなビジュアルは世界各国で通用しますし、AITuberはリアルタイムで外国語を喋ることもできる。たとえばタイ語でのトークに日本語で返すことも、タイ語で返すことも可能です。日本人ほど字幕に慣れていない外国人に向けて「本人と直接喋れます」という魅力はかなり大きいと思います。

ー日本のコンテンツのクオリティへの信頼も高いですしね

ただ、その点においてはやや危機感を抱いているんです。と、いうのも僕はノベルゲームの凋落ぶりを見てきたわけで。どんな業界でも才能というものは新たなムーブメントに集まるものですが、実はエンタメ業界はイノベーションが起きにくい産業。常にリスクを取りながら新しいものにチャレンジしていかないと、コンテンツは存在し続けられないんです。



ー進化がなければエンタメから才能が流出してしまうことも考えられると

たとえば中国では『原神』というゲームで4千億ぐらいの売上をあげて、そのお金で『スターレイル』をとんでもないクオリティで作りました。それがヒットしたとんでもない資金で最近また『ゼンレスゾーンゼロ』っていうソシャゲをこれまたとんでもないクオリティで生み出す…そんな拡大再生産がすでに始まっているんです。

ーあれだけの人口があるわけですから才能も豊富でしょうしね

このまま傍観しているだけではコンテンツにおけるジャパンクオリティが凌駕される日はいつかやってくるでしょう。だから僕らのようなエンタメへの理解と最先端技術を両立させられる会社が旗振り役として業界内でのDXを推進しなければ、と思っています。オタクの中でも新しいものに抵抗がない人たちがもっと頑張らないと、日本がエンタメ大国でなくなってしまう。

ーグローバルマーケットへの進出が急がれますね

とはいえ直近では国内マーケットを第一に考えています。日本で当てないことには海外進出は難しいでしょう。まず自分たちでしっかりやりきれるところまでやって、それから海外の文化圏に持っていくためのアレンジを施していく。日本でハマれば一瞬で海外に飛び出せるはずですから。

ビジュアルと言語の両面におけるコミュニケーションのなめらかさでAITuberとグローバルの相性は抜群ですからね。さらにマーケットが巨大。そこまでわかっているので、いたずらに慌てることなく着実に勝ち筋を歩んでいく戦略を立てています。


エンタメに持続可能性のまなざしを

ーPictoriaがエンタメを通して社会に提供していくものは何でしょう

僕らは「推せる未来をつくる。」をミッションに掲げています。そして世界中の人に向けて常に推しがいる状況をつくろうとしています。「推し」とは無償の愛情を注げる対象です。それはアイドルでも、アスリートでも、ペットでもいい。だけどアイドルやアスリートはいつか引退するし、ペットにも寿命というものがあります。

そこにAITuberを通して不変なもの、失われないもの、ずっと裏切らない存在を提供することでひとりでも多くの人の癒やしや心の拠り所、あるいは救いのようなものになればと思っているんです。

ーなくてもいいかもしれないけれど、ないと寂しい、あったほうがいいもの?

生きがいのようなものですね。あと最近「推し疲れ」なんて言葉もでてきていますが、推し活って周囲と比較されてしまいがち。目に見えるヒエラルキーに疲弊感を覚える人も増えているようです。それもAITuberなら自分だけの推しの世界が実現できる。せっかくのエンタメです。送り手も受け手も豊かであってほしいんですよね。

ーエンタメは消費されるもの、という認識でした

全ての分野に当てはまるわけではありませんが多くの場合、演者側もある一定の期間にしか価値を提供できない、という構造があります。主に年齢やビジュアルの面ですね。しかも本人の努力だけではどうすることもできない、所属事務所の力関係や世の中の流れに左右される側面もある。

またVTuberの世界でもいわゆる「喰われる」現象で活動休止を余儀なくされるケースも増加しています。こういった構造的な業界の課題にAITuberは一石を投じることにもなる、と考えています。



ー持続可能性の高いエンタメ・コンテンツが生まれるわけですね

もちろん終わりがあるから尊いという価値観もありますから、傷つかない程度にフェードアウトしていくみたいなキャラもあっていいかもしれません。いずれにしても持続させることも、終わらせることも、それが選択できる点が画期的ではないかと。

ー最後に明渡さんの事業における信念みたいなものがあれば

常に進歩する、ということですね。さきほども言いましたがエンタメ業界はレガシーな産業です。特にコンテンツに関しては送り手だけでなく受け手も意外と保守的だったりします。新しい技術に嫌悪感を抱く関係者も少なくありません。たとえばアニメ経済圏は伸びていてもアニメーターの所得は変わっていない。お金を集めるスキームが進化していないんです。またAIをアニメに持ち込むのはけしからん、というような論調も相変わらずありますよね。

ーだからこそ進歩、なんですね

やっぱり常に新しいものを模索し続けることが重要かなと思います。たとえば新しい王道を生み出し続けるために2つの異なるコンセプトを融合させる。僕らでいえばAIとVTuberですね。最初は紐づかないわけです。これまで通り人間でやればいいじゃん、となる。でもそこで立ち止まらずに、勇気と覚悟を持ってアクセルを踏みこむんです。

ー異端である覚悟を持って進歩する、と

ファーストペンギンが必ず勝つわけじゃないけど、ファーストペンギンじゃないと事業をやる価値がないでしょう。それがいずれ世の中の当たり前になる。自分の考えた新しいスタンダードが定着する。そして社会を良くしていく…これを常に模索していきたいですね。

ー本日はありがとうございました!



【Profile】
明渡 隼人 代表取締役 CEO
1994年生まれ。明治大学卒。UCバークレー校への半年の交換留学後、2社でのエンジニアインターンを経て2017年12月に株式会社Pictoriaを設立。2019年にVTuber「斗和キセキ」をデビューさせ、クラウドファンディングにて支援総額1,500万円超を達成する。 以降、VTuber・VR周辺領域での事業を展開。2020年にはAIとVTuberを掛け合わせたAITuber「紡ネン」をリリース。また 2023年には世界初のAITuber事務所「AICAST」を設立。 主にAI技術を活用したエンタメ・サービス開発に注力し、グローバル進出を狙う。

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